陸屋根に設置される「パラペット」は、転落防止やデザイン性の向上など多くの役割を持ちます。
しかし一方で、雨漏りリスクや費用面での注意点も避けられません。
この記事では、主に下記の3点を解説します。
- パラペットの基本的な役割やメリット・デメリット
- 笠木まわりの防水や工法別の特徴
- 費用相場や工事周期の目安
陸屋根のパラペットに関して知識を深めたい方は、ぜひ最後までご覧ください。
パラペットとは?基本の役割と特徴を知っておこう
画像引用元:株式会社翔和公式ホームページ
パラペットとは、建物の屋上やベランダ外周部に設けられる低い立ち上がり壁のことです。
転落防止や雨水対策など安全性を高める機能に加え、外観デザインを整える役割も持ちます。
- パラペットの役割
- パラペットがある屋根とない屋根の違い
順に説明します。
パラペットの役割
パラペットの主な役割は、防水性の確保・安全性の向上・デザイン性の3点に集約されます。
外壁と屋上の境界に立ち上がり壁を設けることで雨水の侵入を抑え、外壁の劣化を防ぐ効果があります。
さらに、屋上では転落防止の柵として働き、安全性を高める重要な存在です。
加えて、外観をすっきり仕上げる効果もあり、意匠面では建物の価値を高める大切な要素となります。
パラペットがある屋根とない屋根の違い
パラペットがある屋根は、特に傾斜の少ない陸屋根で雨水や風の吹き込みを防ぎ、建物の耐久性を高める特徴があります。
一方、パラペットがない屋根は、雨水が直接外壁に流れやすく、外壁や防水層の劣化を早める恐れがあります。
安全性の確保や外観デザインの統一感という点でも、パラペットの有無で大きな差があるでしょう。
パラペットを設置するケースが多い、陸屋根についての詳しい情報は、下記記事をご覧ください
【関連記事】陸屋根で後悔しないためには?メリット・デメリットを知って適切な対処をしよう!
パラペットの3つのメリット

パラペットには、安全性・デザイン性・屋上利用の自由度という3つの大きなメリットがあります。
- 安全性が高まり転落防止になる
- 建物のデザイン性・意匠性を高められる
- 屋上利用の自由度が広がる(屋上庭園・太陽光設置など)
それぞれの特徴を詳しくみていきましょう。
メリット①:安全性が高まり転落防止になる
パラペットは、陸屋根やバルコニーの外周部に設けられた立ち上がり壁として、転落防止の役割を果たします。
大人や子どもが誤って足を踏み外してもパラペットがバリアとなり、墜落事故のリスクを減らせます。
また、物が風にあおられての落下も防げるため、建物周囲の安全性向上にもつながるでしょう。
高所利用時の安心感を確保できる点は、大きなメリットです。
メリット②:建物のデザイン性・意匠性を高められる
パラペットを設置すれば、建物の外観デザインをより洗練された印象に整えられます。
陸屋根を四角いキューブ型に見せたり、傾斜屋根の勾配を外から目立たなくしたりすれば、モダンでスタイリッシュな雰囲気の演出が可能です。
また、外壁材や笠木(※)の仕上げ材を工夫すれば、素材感や色調によってデザイン性をさらに高められます。
意匠性の向上は、資産価値にもつながるメリットです。
※手すり、腰壁、パラペットなどの最上部に取り付けられる板状・笠状の仕上げ材。
建物を雨風や紫外線の劣化から保護し、雨だれによる外壁の汚れを防ぐ役割を持つ
メリット③:屋上利用の自由度が広がる(屋上庭園・太陽光設置など)
パラペットは、屋上を生活空間として活用する際にも大きな役割を果たします。
隣地からの視線を遮る効果があるため、プライバシーを守りながら洗濯物を干せるなど、日常的に利用しやすくなります。
さらに、屋上庭園や家庭菜園、太陽光パネルの設置といった多様な活用も可能です。
パラペットがあることで屋上が安全かつ快適なスペースへと変わり、住まいの利便性と価値を高められます。
パラペットの3つのデメリット

パラペットは安全性やデザイン性を高める一方で、注意点もあります。
ここでは、3つのデメリットを解説します。
- 雨漏りのリスクが高まる
- 外壁の通気をとりにくく結露のリスクがある
- 設置やメンテナンスに費用がかかる
順にみていきましょう。
デメリット①:雨漏りのリスクが高まる
パラペットは、外周部に立ち上がり壁を設ける構造上、雨水が溜まりやすく、雨漏りリスクが高まります。
特に笠木の接合部や防水層が劣化すると、わずかな隙間からでも浸水する場合があります。
雨染みやシーリングの劣化を放置すれば、内部構造材への被害が広がり、補修費用が高額化するケースも少なくありません。
定期的な点検とメンテナンスが欠かせない部分です。
デメリット②:外壁の通気をとりにくく結露のリスクがある
パラペットの設置によって、外壁と屋上の境界が密閉され、通気性が下がる場合があります。
笠木や防水材が、外壁との隙間を覆うことで空気の流れが妨げられ、壁内に湿気がこもりやすくなるのです。
その結果、結露が生じて内部の断熱材や下地木材が傷み、雨漏りやカビの原因となる恐れがあります。
換気や通気層の確保を前提とした設計・施工をおこなうことが、長期的な耐久性を保つために重要です。
デメリット③:設置やメンテナンスに費用がかかる
パラペットは設置時の初期費用に加え、定期的な点検や補修にもコストがかかります。
専門業者による点検・清掃はもちろん、不具合が見つかればシーリング打ち替えや笠木交換など、高額な工事が必要になる場合もあります。
特に雨漏りを放置して被害が広がると、部分補修では済まず全面改修に至るケースもあるでしょう。
維持管理費用を見込んで、計画的に管理する姿勢が必要です。
陸屋根のパラペットに必要な笠木と防水施工のポイント

パラペットを長持ちさせるためには、最上部を保護する笠木と、その周囲の防水処理が欠かせません。
ここでは、笠木の役割と、防水の重要性や注意点について解説します。
- 笠木とは?
- 笠木まわりの防水の重要性と注意すべき箇所
- 施工時に気をつけたい勾配やシーリング処理
順に説明します。
笠木とは?
笠木とは、パラペットの最上部を覆う仕上げ材のことです。
アルミやステンレス、ガルバリウム鋼板(※)などが用いられ、パラペット内部に雨水が浸入するのを防ぎます。
※鋼板にアルミニウム、亜鉛、シリコンの合金でメッキを施した鋼材。
優れた耐熱性・熱反射性から金属屋根や外壁材として広く使われている
さらに、建物の外観を整えてデザイン性を高める効果もあり、機能性と意匠性の両面で欠かせない部材です。
陸屋根は水が溜まりやすいため、笠木が劣化すると雨漏りリスクが高まります。
定期的な点検やシーリング補修をおこない、異常があった場合の早期対応が、建物の耐久性を保つために重要です。
笠木まわりの防水の重要性と注意すべき箇所
笠木まわりは、パラペットのなかでも特に雨漏りしやすい部分です。
上部は水平で水が溜まりやすく、ジョイント部のシーリング切れや小さな隙間からも浸水します。
そのため、笠木を設置していても、下地の防水処理が確実にされているかが大きなポイントです。
また、施工時に水が流れやすいよう勾配を設けることも重要です。
点検ではシーリングの劣化や浮き、雨染みの跡がないかを確認し、異常があれば早めに補修をおこない、大規模な雨漏り被害を防ぎます。
施工時に気をつけたい勾配やシーリング処理
パラペットまわりの施工では、雨水を溜めないための勾配設計とシーリング処理が重要です。
笠木や上部が水平すぎると水が滞留し、わずかな隙間から浸水しやすくなります。
そのため、施工時には水が自然に外へ流れるよう、適切な勾配を確保する必要があります。
また、笠木の継ぎ目や端部にはシーリング材を用いて、防水層と確実に一体化させることが欠かせません。
特にジョイント部は劣化しやすいため、施工後も定期的な点検と補修を前提に計画しておくことが雨漏り防止につながるでしょう。
パラペットの防水工事|工法別の特徴

パラペットの防水工事には、隙間を補修する簡易的な方法から、排水設備や防水層を大規模に修繕する工法まで幅広い種類があります。
それぞれの特徴を理解しておきましょう。
- コーキング(シーリング)材による補修
- 内樋(うちどい)の補修・交換工事
- 防水シートの補修・再施工
順に説明します。
コーキング(シーリング)材による補修
コーキング(シーリング)材による補修は、ひび割れや隙間が小規模な段階で有効な工法です。
シーリング材を充填して隙間をふさぐことで、雨水の浸入を防ぎ、防水性能を一時的に回復させられます。
比較的安価で、短期間で施工できる点が利点ですが、劣化スピードが早いため、定期的な打ち替えや再補修が必要です。
小さな不具合の段階で実施すれば、大規模工事を防ぐ予防策になります。
内樋(うちどい)の補修・交換工事
内樋(うちどい)は、屋上や陸屋根に降った雨水を排出する重要な設備で、詰まりや破損があると雨漏りに直結します。
軽度の詰まりや小さな破損は、清掃や部分補修で対応可能ですが、穴あきや腐食が進行した場合は交換が必要です。
交換工事には一定の費用と工期がかかるため、定期的な点検と清掃による予防管理が欠かせません。
健全な排水経路の確保が、雨漏り防止の基本となります。
防水シートの補修・再施工
パラペットまわりの防水では、防水シートの状態も大きな影響を及ぼします。
防水シートの状態が、小規模な劣化であれば、コーキング材を併用した部分補修で対応できますが、劣化が広範囲に及ぶ場合はシートの張替えや全面再施工が必要です。
再施工では既存の防水層を撤去し、新しいシートを敷設するため、工期や費用は増えますが耐久性は格段に向上します。
劣化状況に応じて、適切な工法を選ぶことが重要です。
パラペット防水工事|費用と周期の目安

パラペットの防水工事は、部位や工法によって費用が大きく変わり、さらに耐用年数に応じて定期的な改修が必要です。
- パラペット防水工事の費用相場
- パラペット防水工事の周期の目安
順に説明します。
パラペット防水工事の費用相場
パラペット防水工事の費用は、笠木や内樋、防水層など、それぞれ劣化の状況に応じて適した工事が必要です。
【パラペット防水工事の費用相場】
| 施行部位 | 工法・内容 | 費用の相場(税込) |
|---|---|---|
| 笠木 | コーキング補修(小規模補修の場合) |
約5,500~11,000円/m |
| 板金交換(劣化が進んだ場合) | 約11,000~22,000円/m | |
| 内樋 | 清掃(詰まり解消) | 約2,200~5,500円/m |
| 交換(腐食・穴あき時) | 約11,000~22,000円/m | |
| 防水層 | シート防水(一般的で施工実績多し) | 約4,400~5,500円/平米 |
| FRP防水(耐久性重視) | 約5,500~7,700円/平米 | |
| ウレタン防水(封雑な形状の場合) | 約4,950~6,050円/平米 | |
| シーリング目地 | 増し打ち(応急補修時に有効) | 約550~990円/m |
| 打ち換え(劣化が進行した場合) |
約990~1,320円/m |
このように、パラペット工事では縦方向(高さ)と横方向(長さ)の両方で費用が発生します。
さらに、足場代や養生費、施工管理費などの間接費も加わるため、工事総額は相場より高くなるケースも少なくありません。
工法ごとの特徴と費用感を理解し、信頼できる業者から複数の見積もりを取ることが、適正価格で工事をおこなうための第一歩となります。
陸屋根が雨漏りした際に、修理費用を安く抑える方法が知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
【関連記事】【陸屋根の雨漏り対処法】応急措置の方法や修理費用を抑えるポイントも解説!
パラペット防水工事の周期の目安
パラペットの防水は一度施工すれば終わりではなく、経年劣化に応じたメンテナンスが必要です。
目安として、5~10年ごとにトップコートの再塗装をおこない、紫外線や風雨から防水層を保護します。
さらに、7~10年ごとにシーリングの打ち直しや防水層の部分補修を実施するのが理想です。
そして15~20年を目安に、全面的な防水層の張り替えや内樋の交換など、大規模修繕を検討する必要があります。
これらの計画的な実施により、雨漏りのリスクを抑え、建物全体の耐久性を長く維持できるでしょう。
パラペット付き陸屋根に関するよくある質問

パラペット付き陸屋根に関する、よくある質問を4つ紹介します。
- 陸屋根とパラペットの違いは何ですか?
- 陸屋根に設置するパラペットの高さは?
- 木造の陸屋根にもパラペットは必要ですか?
- パラペットのない陸屋根はどうなりますか?
順にみていきましょう。
陸屋根とパラペットの違いは何ですか?
陸屋根とは、勾配の少ないフラットな屋根のことです。
一方、パラペットは陸屋根の外周部に設けられた立ち上がり壁で、屋根と外壁の境界を保護する役割を果たします。
つまり陸屋根が「屋根の形状」を示す言葉であるのに対し、パラペットは「屋根の縁にある構造物」を指すという違いがあります。
陸屋根に設置するパラペットの高さは?
陸屋根のパラペットの高さは、用途によって異なります。
人が屋上に出入りする場合は、安全性確保のために建築基準法で定められる1.1m以上の高さが必要です。
一方、出入りがない場合でも防水性を確保するために最低150mm以上、一般的には600mm程度の立ち上がりが推奨されます。
高さは、用途と法規をふまえての設計が大切です。
木造の陸屋根にもパラペットは必要ですか?
木造建物においても、パラペットは雨漏りを防ぎ防水性を高めるために有効です。
ただし、設置により外壁の通気が悪くなる場合があるため注意が必要です。
屋根裏の換気性能を損なわないように、通気部材や換気口を併用するのが望ましいでしょう。
木造の場合は、構造の特性に合わせた設計と施工管理が重要になります。
パラペットのない陸屋根はどうなりますか?
外周にパラペットがない場合、陸屋根の端に流れた雨水はそのまま外壁を伝って流れ落ちます。
その結果、外壁材や防水層が劣化しやすくなり、雨漏りの原因となることもあります。
さらに、見た目の仕上がりがシンプルすぎて意匠性に欠ける場合もあるでしょう。
防水性とデザイン性の両面で、パラペットの有無は建物に大きな影響を与えます。
陸屋根のパラペットを正しく理解して雨漏りを防ごう!

パラペットは、陸屋根に欠かせない立ち上がり壁で、安全性の確保やデザイン性の向上、屋上利用の幅を広げるなど多くのメリットがあります。
一方で、雨漏りや結露のリスク、施工や維持管理にかかる費用といったデメリットも存在します。
笠木や防水施工を適切におこない、工法や費用相場、改修周期を把握しておくことが、建物を長持ちさせる秘訣です。
正しい理解と計画的なメンテナンスで、安心できる住まいを守りましょう。




