屋上やバルコニーなどの防水対策として広く使われているのが「シート防水」です。
軽量で施工が早く、建物への負担が少ないのが特徴ですが、施工方法や手順を誤ると本来の効果が発揮されません。
この記事では、シート防水の基本的な施工方法である「機械的固定工法」と「密着工法」の違いや具体的な手順をわかりやすく解説します。
さらに、工事にかかる費用相場や見落としがちな劣化のサイン、定期的なメンテナンス方法まで詳しく紹介します。
防水工事のタイミングに悩んでいる方や、正しい施工の流れを知っておきたい方に役立つ情報をまとめているので、ぜひ参考にしてください。
シート防水の2つの施工方法
シート防水の種類は、主に「機械的固定工法」と「密着工法」の2種類です。
どちらの工法も、防水シートを建物に取り付けて雨水の侵入を防ぐ目的は同じですが、固定方法や適した環境、施工性に違いがあります。
以下では、それぞれの特徴を解説し、両者の違いを比較して紹介します。
- 機械的固定工法
- 密着工法
- 両工法の違い
順にみていきましょう。
機械的固定工法
機械的固定工法とは、防水シートを接着剤や熱で貼り付けるのではなく、専用の固定金具やアンカーなどを使って下地に機械的に固定する工法です。
シートと下地の間に通気層を確保できるため、湿気がこもりにくく、防水層の膨れや剥がれを防止しやすいなどのメリットがあります。
特に、既存の下地が劣化している場合や、湿気を含んでいる可能性がある建物の改修工事に適している点が特徴です。
また、施工時に臭いや火気を使わないため、安全性の面でも評価されています。
密着工法
密着工法は、防水シートの裏面に接着剤を塗布し、下地にしっかりと貼り付ける施工方法です。
下地との密着性が高いため、風による浮き上がりやズレに強く、シンプルな構造で仕上がりもフラットになります。
新築工事や、既存下地の状態が良好である建物に採用されることが多い工法です。
ただし、湿気がたまりやすい環境では、シートの膨れや剥がれが発生する可能性があるため、事前の下地調査や湿気対策が必要になります。
比較的低コストで施工できる点も魅力の1つです。
機械的固定工法と密着工法の違い
2つの工法は、同じ「シート防水」でありながら、施工方法や費用、適用条件などに明確な違いがあります。以下の表に、主な比較ポイントをまとめました。
比較項目 |
機械的固定工法 |
密着工法 |
平米あたりの費用相場 |
約5,000〜7,500円 |
約4,000〜6,000円 |
工期 |
ほぼ同等(工程の違いにより若干の差あり |
ほぼ同等(工程の違いにより若干の差あり |
下地の状態 |
劣化や湿気があっても対応しやすい |
良好な状態であることが前提 |
通気性 |
通気層あり、湿気に強い |
通気性なし、湿気に注意 |
対応建物 |
改修向け、下地が不安な建物に適す |
新築や下地状態のよい建物に適す |
デメリット |
コスト高め、構造がやや複雑 |
湿気に弱い、膨れ・剥がれの恐れあり |
どちらの工法にも長所と短所があるため、建物の状況や予算、目的に応じて最適な方法を選ぶことが大切です。
専門業者と相談しながら判断しましょう。
シート防水の施工手順
シート防水工事では、選択する工法によって施工の流れが異なります。
ここでは「機械的固定工法」と「密着工法」それぞれの施工手順を、時系列に沿って詳しく解説します。
正しい手順を理解すれば、施工不良や早期劣化を防ぐことが可能です。
- 機械的固定工法の施工手順
- 密着工法の施工手順
それぞれ説明します。
機械的固定工法の施工手順
機械的固定工法は湿気を逃がす通気構造が特徴で、以下のような手順でおこなわれます。
手順 |
作業内容 |
1.下地確認・清掃 |
下地の汚れや劣化をチェックし、ほこり・油分・水分を除去 |
2.絶縁シート敷設 |
下地と防水層の間に敷き、湿気が抜ける通気層を形成 |
3.固定金具の設置 |
外周部や要所に鋼板やアンカーを取り付け、シートを機械的に固定 |
4.防水シート敷設 |
絶縁シートの上から防水シートを敷き、端部を金具で留める |
5.シートの継ぎ目処理 |
溶着材や熱処理でつなぎ目を密封し、防水性を高める |
6.脱気筒の設置 |
内部の湿気を逃がすために必要な箇所へ脱気筒を取り付け |
7.最終確認 |
全体をチェックし、浮き・破れ・接合不良などがないか確認 |
密着工法の施工手順
密着工法は下地に直接シートを接着する工法で、次のような流れで進めます。
手順 |
作業内容 |
1.下地確認・清掃 |
ひび割れや凹凸がないかをチェックし、異物や汚れを除去 |
2.プライマー塗布 |
接着剤の密着性を高めるため、下地にプライマーを塗る |
3.接着剤塗布 |
防水シートを貼る範囲に均一に接着剤を塗布 |
4.シート敷設 |
空気を巻き込まないように注意しながら防水シートを丁寧に貼り付ける |
5.継ぎ目処理 |
シート同士のつなぎ目は、溶着や熱処理でしっかり密閉 |
6.ドレン・端部処理 |
排水口や立ち上がり部など細部の納まりを処理し、防水性を高める |
7.最終チェック |
めくれ・浮き・シワの有無を確認し、必要に応じて手直し |
シート防水工事の費用相場
シート防水工事の費用は、使用する工法や下地の状態、設置環境によって異なりますが、おおよその目安として、30坪前後(約80平米)の屋上に施工する場合、80万円〜100万円程度が相場です。
1平米あたりの単価で換算すると、密着工法で約4,000〜6,000円/平米、機械的固定工法で約5,000〜7,500円/平米が一般的です。
加えて、脱気筒やドレンの処理、施工の難易度などにより追加費用が発生するケースもあります。
正確な見積もりを得るには、現地調査を経て施工業者に確認するのが確実です。
【見逃し厳禁】シート防水の劣化症状
シート防水は耐久性に優れた工法ですが、時間の経過とともにさまざまな劣化症状が現れます。
見逃して放置すると、雨漏りや建物全体の寿命に影響を及ぼすため、早期発見と適切なメンテナンスが不可欠です。
ここでは特に注意すべき代表的な劣化のサインを紹介します。
- シート表面のひび割れ
- シートの継ぎ目や端部の劣化
- シートのたわみや破れ
- 水たまりや植物の発生
順にみていきましょう。
シート表面のひび割れ
塩ビ製の防水シートに、柔軟性を保つために含まれているのが「可塑剤(かそざい)」です。
しかし、この可塑剤は経年とともに揮発・分解し、塩ビ自体が硬化してしまいます。
その結果、表面にひび割れが発生しやすくなり、そこから雨水が侵入してしまう恐れがあります。
小さなひび割れでも、内部の断熱層や下地まで影響を与えるため、放置は厳禁です。
シートの継ぎ目や端の劣化
防水シート本体が良好な状態でも、継ぎ目や端部の接合部が劣化していると、そこから雨水が浸入します。
特に外周や立ち上がり部などは、風や紫外線の影響を受けやすく、劣化が進行しやすい箇所です。
目視ではわかりにくい場合もあるため、専門業者による定期的な点検が欠かせません。
シートのたわみや破れ
シート防水は複数のシートを張り合わせる構造のため、継ぎ目がズレたり浮いたりして、たわみや破れが発生する場合があります。
特に風や積雪、強い雨などの外的要因が加わると、シートが引っ張られたり剥がれたりしやすくなります。
破れた箇所から雨水が入り込むと、下地や建物内部に深刻な影響を与えるため、早急な補修が必要です。
水たまりや植物を発見
防水層に水たまりができる原因は、排水溝の詰まりや、陸屋根の歪み・下地の浮きなどです。
放置するとシートに負荷がかかり、劣化が進行します。
また、屋上の端部などに植物が生えていた場合、その根がシートを貫通して下地を破壊し、雨漏りを引き起こすケースもあります。
こうした症状を発見したら早めに専門業者へ相談し、防水工事の必要性を判断してもらうのが賢明です。
シート防水の4つのメンテナンス方法
シート防水は、適切なメンテナンスをおこなうことで耐久性を大きく延ばせます。
定期的な点検と軽微な補修を怠ると、劣化が進行し雨漏りや構造体へのダメージにつながるでしょう。
ここでは、比較的簡単に実施できる4つの基本的なメンテナンス方法を紹介します。
- トップコート塗装
- ドレン周りの掃除
- 部分補修(破れ・剥がれへの対応)
- 脱気筒の設置(湿気による膨れへの対応)
順にみていきましょう。
方法①:トップコート塗装
トップコートとは、防水層の上に塗布する保護用の塗膜のことです。
直接紫外線や風雨にさらされる防水シートは、そのまま放置しておくと徐々に劣化が進みます。
トップコートには防水機能そのものはありませんが、防水層を守る役割があり、表面の劣化を大幅に抑えることが可能です。
塗り替えの目安は5年程度とされ、定期的な再塗装によって防水層を長く維持できます。
見た目の美しさも保たれるため、屋上やバルコニーの美観を損なわない点も魅力です。
方法②:ドレン周りの掃除
ドレンは屋上の排水口であり、ゴミや落ち葉が溜まりやすい箇所です。
ここが詰まると排水がうまくいかず、水たまりができてトップコートやシート防水層の劣化を早める原因になります。
また、水が滞留すると植物が根を張り、シートにダメージを与えるリスクも少なくありません。
これを防ぐためには、2〜3週間に1回程度の点検と掃除が理想です。
目に見えるゴミは取り除き、必要に応じてブラシなどで汚れを落としましょう。
シンプルな作業ですが、防水層を守るうえで効果的です。
方法③:部分補修
シート防水は、全体的な張り替えをせずとも、軽度な破れや剥がれであれば「部分補修」で対応可能です。
具体的な補修方法は以下の3つです。
- パッチ補修:破れた箇所に補修用シートを重ね貼りし、水の侵入を防ぐ方法です。手軽かつ広く使われます。
- 熱溶着補修:剥がれた継ぎ目部分などを加熱して再度接着する方法です。高い防水性の確保が可能です。
- 部分的な張り替え:劣化がひどい場合は、該当部分のシートを剥がして新しいシートを設置します。補修範囲に応じて費用は変動しますが、全張り替えよりも費用負担を抑えられます。
いずれの場合も、劣化を放置せず早期に対応すれば、工事の規模や費用を抑えられます。
方法④:脱気筒の設置
シート防水の施工後、下地に残った湿気や建物から発生する水蒸気によって、防水層に「膨れ」が生じることがあります。
これを放置すると、膨れた部分が破れやすくなり、防水性能が著しく低下します。
この対策として有効なのが「脱気筒」の設置です。
脱気筒は、内部の湿気を逃がす装置で、シート内部の空気を循環させて膨れの発生を防止します。
設置費用は1箇所あたり12,000〜15,000円程度です。
膨れが見られる場合や通気層のない密着工法には、特に効果的なメンテナンス方法です。
シート防水の施工に関するよくある質問
シート防水工事を検討する際には、「いつ頃施工すべき?」「雨の日でもできる?」「デメリットはある?」など、疑問や不安を感じる方も多いはずです。
ここでは、よく寄せられる質問とその回答をピックアップして解説します。
事前に知っておくことで、工事の判断や業者選びの参考になるでしょう。
- シート防水工事の周期は?
- 雨天時でも工事をしますか?
- シート防水のデメリットは?
順に紹介します。
Q1:シート防水工事の周期は?
シート防水の工事周期は、一般的に10年から15年程度が目安です。
ただし、建物の立地や環境、使用されているシートの種類、施工時の品質などによっても異なります。
強風や紫外線を多く受ける場所では、劣化が早まる傾向にあります。
表面のひび割れや膨れ、シートのたわみなどが見られるようであれば、周期に関わらず早めの点検と補修が必要です。
定期的なトップコート塗装や簡易点検を挟めば、工事時期を延ばすことも可能です。
Q2:雨天時でも工事をしますか?
シート防水の施工は基本的に晴天時におこなおこなうのが原則です。
なぜなら、下地や接着面が濡れていると、接着剤の密着力が低下し、防水層の耐久性が落ちてしまうためです。
また、雨天時は施工中に水が入り込むリスクもあります。
品質を確保するうえでも工事は中止または延期されることが多いでしょう。
小雨や曇天でも、湿度や乾燥時間の確保が難しいと判断されれば、業者側からスケジュールの変更を提案されるケースもあります。
スムーズな工事のためには、事前に予備日を確保しておくと安心です。
Q3:シート防水のデメリットは?
シート防水は施工スピードが速く、広い面積に向いているなどのメリットがありますが、いくつかのデメリットもあります。
まずあげられるのが、複雑な形状の屋根や立ち上がりの多い場所には不向きである点です。
シートは一定の大きさがあり、曲面や細かな凹凸部には隙間ができやすく、容易に施工ができません。
また、初期費用がやや高めであることも考慮しておくべきです。
さらに、塩ビシートなどの施工には専門的な知識や技術が求められるため、経験豊富な業者に依頼しないと施工不良につながる恐れもあります。
これらの点を理解し、適切な業者選びとプラン設計をしましょう。
防水工事で気になる方は、防水工事のプロ「翔和」にご相談ください
シート防水は、施工方法や手順を正しく理解し、定期的な点検とメンテナンスをおこなえば長期的に建物を守ることができます。
ひび割れや膨れなどの劣化症状は放置せず、早期対応が重要です。
工事の周期や注意点を把握し、適切なタイミングで専門業者に相談しましょう。
防水工事のことで少しでも不安がある方は、実績豊富なプロ「翔和」にご相談ください。
現地調査から施工まで、丁寧に対応いたします。