「既存のシート防水が劣化してきたものの、全面的な張り替えには手間もコストもかかる」。
そんなときに検討されるのが、ウレタン防水の「重ね塗り施工」です。
実際にシート防水の上にウレタン防水を施工する方法は広く使われており、状況によっては耐久性や防水性能を効率的に高める手段となります。
ただし、施工にはいくつかの注意点があり、すべてのシート防水に適用できるわけではありません。
この記事では、シート防水の上にウレタン防水を施工できる理由やメリット、向いているケースや施工手順を解説します。
信頼できる業者の選び方まで紹介するので、ぜひ参考にしてください。
シート防水の上にウレタン防水施工は可能
結論から述べると、「既存のシート防水がまだ大きく損傷していない場合」、その上からウレタン防水を重ねて施工することは可能です。
ウレタン防水は密着性や柔軟性に優れており、適切な下地処理やプライマーを使えば安定した防水性能を発揮します。
ここでは以下の2つの視点から詳しく解説します。
- シート防水の上にウレタン防水を重ね塗りできる理由
- シート防水の上にウレタン防水を重ね塗りするメリット
順に説明します。
シート防水の上にウレタン防水を重ね塗りできる理由
シート防水の上にウレタン防水を重ね塗りできる理由は、その「柔軟性」と「密着性」にあります。
ウレタン防水は液状で施工されるため、複雑な形状の屋上や狭い場所にも対応しやすいのが特徴です。
さらに、固まった後も弾力性と伸縮性を持ち、既存のシート防水の膨張・収縮に追従してひび割れを起こしにくい構造となります。
加えて、専用のプライマーを使えば、既存のシート防水との密着性も高くなり、下地との一体化が可能になります。
ただし、すべてのシート防水に適用できるわけではなく、施工前にシートの状態や素材を確認し、下地の浮きや剥がれがないかのチェックが必要です。
適切な診断を経たうえで施工すれば、性能をしっかり引き出せるでしょう。
シート防水の上にウレタン防水を重ね塗りするメリット
- 費用を抑えられる
- 工期の短縮が可能
- 耐久性が向上する
既存のシート防水を撤去せずに施工できるため、解体や廃材処理にかかるコストを削減できます。
また、撤去作業や下地処理の工程が減るため、全体の工期も短縮され、居住者やテナントへの影響を最小限に抑えられるでしょう。
さらに、既存の防水層に新たなウレタン層を重ねれば、二重の保護が可能となり、雨水や紫外線への耐性が向上します。
これにより、防水効果の長期維持が期待できます。
コスト・工期・性能の3点をバランスよく改善できるのが、重ね塗り施工の大きな魅力です。
シート防水とウレタン防水の違い
防水工事を検討する際には「シート防水」と「ウレタン防水」の違いの理解が重要です。
どちらも一般的な防水工法ですが、施工方法や性能、適した環境が異なります。
それぞれの特徴を解説したうえで、費用や耐用年数を比較します。
- シート防水の特徴
- ウレタン防水の特徴
- シート防水とウレタン防水の比較
順に説明します。
シート防水の特徴
シート防水は、ゴムシートや塩ビシートなどを貼り付けて防水層をつくる工法です。
あらかじめ成型されたシートを、接着剤や機械的な固定により施工するため、工期が比較的短く、品質が安定しやすいのが利点です。
耐久性にも優れており、平坦な屋上や大面積の場所に適しています。
一方で、下地との一体化が難しく、立ち上がりや複雑な形状の箇所では隙間が生じやすいのが欠点です。
また、仕上がりの見た目がやや無骨になりがちで、美観を重視する場所には向かない場合もあります。
ウレタン防水の特徴
ウレタン防水は、液状のウレタン樹脂を現場で塗り広げ、硬化させて防水層を形成する工法です。
液体のため、複雑な形状や細かな部分にも密着しやすく、継ぎ目のない均一な防水層がつくれます。
特に柔軟性と伸縮性に優れているため、地震や温度変化に伴う下地の動きにも追従しやすい点が特徴です。
また、重ね塗りが可能で、メンテナンスのしやすさもメリットです。
ただし、施工は職人の技術に左右されやすく、湿度や気温に注意が必要です。
耐久性は、シート防水よりやや劣るとされています。
シート防水とウレタン防水の比較
シート防水 |
ウレタン防水 |
|
費用相場(平米あたり) |
・塩ビシート:4,500~7,000円 ・ゴムシート:4,000~6,000円 |
3,000~7,500円 |
耐用年数 |
・塩ビシート防水の耐用年数(約10~20年) ・ゴムシート防水の耐用年数(約10~15年) |
10~15年(ただし定期的なメンテナンスが必要) |
メリット |
・塩ビシート材が既製品で厚さが一定なため、職人の技量による仕上がりにムラがない ・既存の防水層の種類を問わずに施工が可能 |
・施工時にシート防水と比べ、ドリル音のような騒音がない ・防水層が軽いため、建物への負担がかからない ・防水性が高い |
デメリット |
・複雑な形状に不向き ・工事中に騒音(ドリル音)が発生する |
・耐久性が低い 特に紫外線に弱く数年に1度塗り直しが必要 ・硬化に数日かかる |
シート防水とウレタン防水は、それぞれ一長一短があります。
費用や耐久性のほか、建物の形状や立地条件、メンテナンス体制を総合的に判断し、適した防水工法を選ぶことが重要です。
防水施工が必要なシート防水の劣化症状
シート防水は耐久性に優れた工法ですが、紫外線や風雨、経年劣化の影響により、時間とともに性能が低下していきます。
劣化が進むと、以下のようなサインが現れます。
- 表面のひび割れ
- 継ぎ目部分・シート端の劣化
- シートの浮きや破れ
- 水たまり
- 雑草が生えている
これらの症状は、防水層としての機能が損なわれている可能性を示しています。
特にシートの浮きや破れは雨水の侵入を許し、建物内部の腐食やカビの原因にもなります。
水たまりや雑草の発生も、防水層の密着性や勾配に問題があるサインです。
目に見える異変がある場合は早めに専門業者に点検を依頼し、必要に応じて重ね塗りや改修を検討しましょう。
シート防水の上にウレタン防水をする際の注意点
シート防水の上にウレタン防水を重ね塗りする工法は、確かに費用や工期を抑えられる有効な手段です。
しかし、どんな状況でも施工できるわけではなく、いくつかの重要なポイントがあります。
ここでは、重ね塗りを検討する際に確認すべき注意点を4つ紹介します。
- 既存シート防水の状態によっては重ね塗りできない場合がある
- シート防水専用のプライマーを使用する
- 信頼できる業者を選ぶ
- 施工後のメンテナンスが必要
順にみていきましょう。
既存シート防水の状態によっては重ね塗りできない場合がある
シート防水の上にウレタン防水を施工する際は、既存の防水層の状態を正しく見極めることが前提です。
シートに大きな破れや浮き、継ぎ目の劣化がある場合、ウレタン防水を上から塗布しても本来の性能を発揮できません。
例えば、既に雨漏りが発生しているようなケースでは、原因となる箇所を完全に補修したうえで、新たな防水層を施工する必要があります。
このような場合には、既存のシート防水をすべて撤去し、防水層を一新する方が確実です。
劣化の進行具合によっては、重ね塗りはかえって施工不良の原因となり得ます。
したがって、施工前には必ず専門業者による調査と診断を受け、最適な施工方法を選ぶことが重要です。
シート防水専用のプライマーを使用する
シート防水の上にウレタン防水を塗る場合、密着性を確保するために「専用プライマー」の使用が欠かせません。
一般的なプライマーではシートとの接着が不十分になることがあり、施工後に剥がれや浮きが発生するリスクがあります。
特に、シート表面は素材によって密着しづらい場合があるため、適したプライマーを使うかどうかが施工品質を左右するでしょう。
なかでも、溶剤を含まないプライマーであり、シート防水と高い相性を持つ製品として例えば「ダイフレックス」社のプライマーが多くの現場で使用されています。
こうした製品は、塩ビシートやゴムシートの上にウレタン防水を施工する際に優れた密着力を発揮し、長期的な耐久性を確保するうえでも有効です。
信頼できる業者を選ぶ
シート防水の上にウレタン防水を重ね塗りする場合、施工の技術力と知識が結果に大きく影響します。
信頼できる業者を選ぶためには、以下の5つのポイントをチェックしましょう。
- 防水工事の専門業者かどうか
- 建設業許可や防水関連資格を保有しているか
- アフターフォローや保証内容が明確か
- 見積りは明確か
- 地元での実績や口コミ評価は問題ないか
特に、資格や保証制度は施工の信頼性を示す指標となります。
安易に価格だけで業者を選ばず、技術面や施工後の対応まで確認しましょう。
信頼できる業者を選ぶ際の、より詳しい情報は下記の記事をご覧ください。
【関連記事】シート防水の耐用年数(寿命)は?屋上・ベランダの防水を長持ちさせる秘訣を解説!
施工後のメンテナンスが必要
ウレタン防水には、重ね塗りや補修がしやすい利点がありますが、それでも定期的なメンテナンスは必要不可欠です。
特に、最表面に施工されるトップコートは紫外線や雨風にさらされることで劣化が進みやすく、数年おきに塗り直すことで防水性能を維持できます。
トップコートが劣化すると、下層のウレタンが紫外線の影響を直接受けて硬化し、ひび割れの原因になります。
これを防ぐためには、施工後も定期的な点検と適切なメンテナンスによる、トップコートの定期的な更新が重要です。
こうした予防的な対応によって、ウレタン防水層の耐用年数を大幅に延ばせるでしょう。
シート防水の上にウレタン防水を施工する5つの手順
シート防水の上にウレタン防水を重ねる際は、正しい工程を踏むことで防水性能を長期間維持できます。
特に品質に大きく直結するのは、下地の状態や材料の選定、各工程の丁寧な作業です。
以下では、実際の工事で採用される5つの基本ステップをご紹介します。
- 下地の処理
- プライマーの塗布
- 通気緩衝シートの敷設
- ウレタン防水の塗布
- トップコートの塗布
順にみていきましょう。
手順①:下地の処理
まずは既存のシート防水の状態を丁寧に確認し、重ね塗りに適したコンディションかを判断します。
破れや浮き、剥がれなどが見つかった場合には、その部分を補修したうえで施工を進めます。
下地の状態が悪いままウレタンを塗布すると、防水層がうまく密着せず、早期に剥離や劣化が起きるリスクが高まるでしょう。
また、表面に付着したホコリ・油分・水分を除去して、下地を清潔で乾いた状態に保つことも重要です。
この段階での処理が仕上がりを大きく左右するため、慎重な作業が求められます。
手順②:プライマーの塗布
下地処理が完了したら、次にプライマーを塗布します。
プライマーとは、ウレタン防水材と下地(今回はシート防水)との接着性を高めるための材料です。
接着剤のような役割を果たし、ウレタン塗料がしっかり密着するようサポートします。
また、下地表面の小さな凸凹を均一に整える効果もあり、ムラのない防水層の形成につながります。
シート防水の素材によっては、専用のプライマーを使用しなければ密着しない場合もあるため、使用する製品に適したプライマー選びが非常に重要です。
手順③:通気緩衝シートの敷設
プライマーが乾いた後は、通気緩衝シートを敷設します。
これは、ウレタン防水材を直接シート防水に塗布せず、その間に通気層をつくるための工程です。
既存の下地に湿気が残っている場合、直接ウレタンを塗布すると気泡や剥がれの原因になります。
通気緩衝シートは下地と防水層の間に微細な空間を確保して、内部の湿気を逃がす通気路をつくり、膨れや剥がれを防止します。
また、建物の動きに対してクッションのような役割も果たし、防水層の長寿命化にもつながるでしょう。
手順④:ウレタン防水の塗布
通気緩衝シートの上からウレタン防水材を塗布して、防水層を形成します。
一般的には1回目の塗布後に乾燥時間を設け、続けて2回目を塗り重ねて厚みを確保する「2層塗り」が基本です。
これにより均一な厚みと密着性を持つ、防水性能の高い層が完成します。
ウレタン防水は液体状のため、凹凸のある場所や細かい部分にも施工しやすく、継ぎ目のない滑らかな仕上がりが得られるのが特徴です。
ただし、厚みにムラがあると漏水の原因になるため、職人の技術と丁寧な作業が求められます。
手順⑤:トップコートの塗布
ウレタン防水層が完全に乾燥したら、最後にトップコートを塗布します。
これは防水層を紫外線や風雨から保護するための仕上げ材で、直射日光や気温差による劣化を抑える役割を担います。
トップコートを施すことで、ウレタン防水の耐久性が向上し、美しい外観も長く保たれるでしょう。
なお、トップコートは時間の経過とともに劣化するため、定期的な塗り替えが必要です。
この最終工程をしっかりおこなえば、防水層全体の寿命を延ばすことができ、長期間にわたって建物を雨水から守れます。
シート防水の上にウレタン防水を施工するかどうかは防水専門業者に相談しよう!
シート防水の上にウレタン防水を重ね塗りする方法は、費用や工期を抑えつつ、防水性能を高められる有効な手段です。
ただし、下地の状態や施工条件によっては適用できないケースもあります。
仕上がりや耐久性を確保するためには、適切な診断と確実な施工が欠かせません。
重ね塗りを検討する際は、防水工事に精通した専門業者に相談し、最適な方法を提案してもらうことが成功への第一歩です。