シート防水は、比較的施工性が高く工期も短いため、多くの建物に採用されている防水工法の1つです。
しかし、実際に採用するとなると「どの種類のシートがいいのか」「工法によって何が違うのか」「自分の建物に合っているのか」など、判断に迷うことも多いのではないでしょうか。
この記事では、シート防水の基本から、塩化ビニールシート(塩ビシート)とゴムシートの特徴、工法ごとの違いや費用相場、適した建物・不向きなケース、さらには長持ちさせるためのコツまで、実践的な情報を網羅的に解説します。
初めての防水工事を検討している方や、改修工事を控えた建物所有者の方は、ぜひ参考にしてください。
シート防水とは?
シート防水とは、建物の屋上や陸屋根に塩化ビニール(PVC)シートやゴムシートを敷設し、下地と密着または固定させて防水層を形成する工法です。
シート自体が防水機能を持つため、雨水や湿気の浸入を防ぎ、建物の劣化や内部への被害を防止します。
特に施工面積が広く、平坦な屋上に適しており、商業施設や集合住宅、ハウスメーカー系の住宅などで多く採用されています。
2024年度の日本防水材料協会(JWMA)の統計によれば、全国でおこなわれた防水工事のうち、約26.5%がシート防水による施工でした。
これはウレタン防水に次ぐシェアを占めており、今や主流の防水工法の1つとして広く普及していることがわかります。
コストと耐久性のバランスに優れ、比較的短期間で施工できる点もシート防水が選ばれている理由の1つです。
シート防水2種類のシート
シート防水に使用される素材は大きく分けて2種類あり、それぞれ特徴や適性が異なります。
現在主流となっている「塩化ビニールシート」と、かつて広く使われていた「ゴムシート」の違いを解説します。
- 塩化ビニールシート:現在の主流。耐久性とコストのバランスに優れる
- ゴムシート:柔軟性は高いが、耐用年数や施工性に課題あり
塩化ビニールシート
塩化ビニールシートは、現在のシート防水においてもっとも多く採用されている素材です。
耐候性や防水性に優れており、紫外線や雨風による劣化が起きにくいため、長期間にわたって防水効果を維持できます。
また、溶着によって接合部を一体化させやすく、施工の均一性にも優れています。
価格帯も比較的安定しており、性能とコストのバランスが取れている点も人気の理由です。
現在では集合住宅や商業施設、公共施設の屋上など幅広い現場で使用されており、施工対応できる職人や業者も多いため、安心して選べる防水材といえます。
ゴムシート
ゴムシート防水は、塩ビシートが主流となる以前に多く採用されていた防水工法です。
加硫ゴムなどの高い柔軟性を持つ素材を使用しており、動きのある下地にも追従しやすい特徴があります。
また、材料費が安く、低コストで施工できる点もメリットです。
しかしながら、耐候性や耐久性の面では塩ビシートに劣り、10〜15年程度が一般的な耐用年数とされています。
さらに、現在では対応できる職人が少なくなってきており、施工体制やメンテナンス体制に不安がある点も否めません。
選ぶ際は、対応可能な業者かどうかを事前に確認しましょう。
シート防水2つの工法
シート防水には、施工方法として主に「機械的固定工法」と「密着工法」の2種類があります。
それぞれ下地との接合方法が異なり、現場の状況や防水性能に与える影響も変わってきます。
- 機械的固定工法:固定金具と熱溶着で取り付ける
- 密着工法:接着剤で下地に直接貼り付ける
順に説明します。
機械的固定工法
機械的固定工法は、防水シートを建物に直接固定金具で取り付け、シート同士の継ぎ目を熱風などで溶着して一体化させる方法です。
通気層を設けられるため、湿気を逃がしやすく、既存の防水層の上からでも施工可能な利点があります。
また、下地の状態に左右されにくく、雨漏りの再発防止に有効です。
ただし、施工時には振動や音が発生する場合があるため、居住中の建物では注意が必要です。
比較的新しい建物や改修時に広く採用されており、耐久性にも優れた工法として注目されています。
密着工法
密着工法は、防水シートを専用の接着剤で下地に直接貼り付けるシンプルな施工方法です。
施工音が少なく、作業時間も短縮できることから、居住中の住宅や静音性が求められる場所に適しています。
材料費や施工費も比較的安く抑えられるため、コスト重視の際に選ばれるケースもあります。
ただし、下地の状態が仕上がりに直結するため、平滑性が求められます。
また、湿気がこもりやすく、既存の雨漏りや水分が残っている場合は不向きです。
新築や、下地状態が良好な現場での使用が望ましいとされています。
シート防水の種類別・工法別特徴
シート防水を検討する際は、素材の種類だけでなく、施工方法によっても費用や耐用年数に差が出ます。
どの素材・工法が自分の建物に適しているのかを把握するためには、それぞれの特徴の比較が重要です。
例えば、平場200〜300平米の屋上でシート防水を施工した場合、費用はおおよそ150万円〜300万円が目安で、工期は約2週間程度かかるとされています。
使用するシートの種類や、選択する工法によってこの費用感は大きく変動するため、下記で詳しく解説します。
シート防水の種類別費用と耐用年数
塩ビシートとゴムシートでは、素材特性に加えて費用や耐久性も異なります。
それぞれの平米単価と耐用年数の目安を下表にまとめました。
シートの種類 |
平米あたりの単価 |
耐用年数 |
特徴 |
塩化ビニールシート |
3,500~7,500円 |
約10〜20年 |
耐候性・耐摩耗性に優れ、施工性も高い |
ゴムシート |
2,500~7,000円 |
約10〜15年 |
柔軟性が高く安価だが、施工対応業者が少ない |
塩ビシートは長期的な耐久性とメンテナンス性に優れており、現在では新築・改修問わず広く採用されています。
一方で、ゴムシートはコスト面で有利ですが、対応できる施工業者が限られる点に注意が必要です。
シート防水の工法別費用相場と耐用年数
シート防水は、同じ素材を使っても「工法」によって費用や耐久性が大きく変わる場合があります。
以下に、代表的な2工法の違いを表で整理しました。
工法名 |
平米あたりの単価 |
耐用年数 |
特徴 |
機械的固定工法 |
5,000~7,000円 |
約15〜20年 |
湿気を逃がせる構造で下地の状態に左右されにくい |
密着工法 |
4,000~6000円 |
約10〜15年 |
コストは抑えられるが、下地の状態に影響を受けやすい |
耐久性を重視するなら機械的固定工法が有利ですが、工事音や振動があるため居住中の物件には注意が必要です。
静音性やコスト重視であれば密着工法が適しています。
シート防水が適している建物
シート防水は、屋上の形状や建物の用途によって向き・不向きがあります。
シート防水が適している建物は、下記のとおりです。
- フラットで広い屋上(マンション・ビル・学校・工場)
- ハウスメーカー(ヘーベルハウス・積水ハウスなど)の陸屋根
- 2回目以降の防水工事に適した建物
順に説明します。
施工面積が広くフラットな建物の屋上
シート防水は、平らで広い屋上を持つ建物に特に適しています。
施工面積が大きくなるほど、防水材の接合部が増えますが、シート防水は継ぎ目を熱溶着により一体化できるため、防水性が高く仕上がりも安定します。
よって、マンション・ビル・工場・学校などのような大規模建築物に多く採用されています。
また施工スピードも比較的早く、工期の短縮にもつながるため、日常的に利用される施設や商業ビルでも使われるケースが増えています。
平坦な構造であることが前提となるため、段差や複雑な構造がない屋根に向いています。
ヘーベルハウスや積水ハウスなどハウスメーカーの陸屋根
ヘーベルハウスや積水ハウスなど、ハウスメーカーが手がける戸建て住宅の陸屋根には、シート防水が標準仕様として施工されていることが多いです。
これらの住宅では「メンテナンス性の高さ」や「長期的な防水性能」が重視されるため、耐久性に優れた塩ビシートが使われるケースが少なくありません。
しかし、注意すべき点として、シート防水の技術は専門性が高く、特にハウスメーカー仕様の構造に対応できる職人は限られています。
実際に施工経験がない業者では、思わぬ施工ミスや耐久性の低下につながる可能性があります。
メンテナンスや再施工の際は、ハウスメーカー物件の実績が豊富な業者を選ぶことが重要です。
2回目以降の防水工事をする建物
2回目以降の防水工事、いわゆる「改修工事」においても、シート防水は有力な選択肢の1つです。
特に既存の防水層を撤去せず、その上から新たなシートをかぶせる「カバー工法」では、ゴムシートが使用されるケースが多くみられます。
ゴムシートは柔軟性が高く、下地の凹凸にもなじみやすいため、既存層を活かしながら新たな防水層を形成するのに適しています。
また、撤去作業が不要なぶん、工期短縮やコスト削減にもつながる点がメリットです。
ただし、既存防水層の劣化状態によっては、下地補修が必要な場合もあるため、事前に専門業者による点検を受けてから工法選定をおこなうのが安心です。
シート防水が不向きな建物
シート防水は平滑で広い面積に適していますが、すべての建物に向いているわけではありません。
シート防水が不向きな建物は下記のとおりです。
- 凸凹が多く複雑な形状の屋上
- 設備機器や手すりが密集する屋上
- 面積が狭くシートの調整が困難なベランダ
順に説明します。
複雑な形状の屋上
シート防水は、シート自体を熱溶着または接着剤で下地に密着させるため、平坦で単純な形状の屋上に向いています。
しかし、複雑な構造や段差、入り組んだ凹凸のある屋上では、シートを隙間なく敷設するのが困難です。
特に立ち上がり部分が多かったり、形状が歪んでいたりすると、施工に手間がかかるだけでなく、防水層にすき間やたるみができやすくなります。
そうした箇所から雨水が侵入するリスクも高まるため、防水性能の安定性を保つことが難しくなります。
このような屋上には、液状で塗り広げられるウレタン防水などの方が適しているケースが多いです。
障害物が多い屋上
屋上に室外機・手すり・配管・点検口などの障害物が多い場合も、シート防水は不向きです。
防水シートは大きな面積をカバーするのに適していますが、障害物が密集していると、シートを細かく切断して加工しながら敷き詰める必要が生じ、隙間なく施工するのが困難になります。
また、加工部分が増えることで、継ぎ目の数も多くなり、そこが劣化・破れの原因になるおそれもあります。
さらに施工ミスのリスクが高まるため、仕上がりの品質にも差が出やすくなるでしょう。
こうした複雑な環境下では、柔軟に対応できるウレタン防水やFRP防水のような液体系防水の方が安全です。
狭いベランダ
シート防水は1枚あたりのサイズが大きく、施工面積が50平方メートル以上の広い場所に向いています。
そのため、面積が狭く形状も入り組んだベランダやバルコニーでは施工効率が悪く、シートの調整や貼り付けが困難です。
特に、マンションの専有部分や戸建ての小さなベランダなどでは、複数枚のシートを重ねて貼る必要があり、継ぎ目が増えて防水性が低下しやすくなります。
また、狭い空間では熱溶着作業がしにくく、安全性の面でも注意が必要です。
このような場所には、現場に合わせて塗布できるウレタン防水の方が向いており、均一な仕上がりが期待できるでしょう。
シート防水のメリット・デメリット
シート防水は、平坦な屋上に対して高い防水性と施工効率を発揮する工法ですが、すべての状況に適しているわけではありません。
ここでは、シート防水の利点と注意すべき短所を順に紹介します。
シート防水のメリット
- シート防水のメリットは以下の4点です。
- 既存の防水層の上から施工ができる
- 凹凸ができにくく雨水がたまりにくい
- 短期間での施工が可能
- 安定した防水性能が得られる
シート防水は、既存の防水層を撤去せずに新しいシートを重ねて施工できるため、廃材が出にくく工期や費用を抑えやすい点が特徴です。
また、工場で規格化されたシートを使うため、仕上がりにムラが少なく、凹凸ができにくいため雨水のたまりも抑えられます。
液体を乾燥させる必要がないため、天候の影響を受けにくく、施工期間が短縮できるのも魅力です。
さらに、継ぎ目は熱溶着や接着処理でしっかり固定されるため、長期間にわたり安定した防水性能を維持できます。
シート防水のデメリット
シート防水のデメリットは以下の4点です。
- 複雑な形状や細かい部分の施工に不向き
- 強風時にシートが破れるリスクがある
- 施工に高度な技術が必要
- 定期的な点検が必要
先述したように、シート防水は平坦な構造に向いていますが、段差や障害物が多い屋根では継ぎ目が増えやすく、施工が難しくなります。
また、強風や台風の際にはシートが浮いたり、破れる可能性があるため、設置環境によっては注意が必要です。
さらに、熱溶着やディスク固定など専門性の高い施工が求められるため、経験の少ない業者による施工不良のリスクも考えられます。
加えて、施工後も端部の浮きや破れなどを早期に発見するために、定期的な点検をおこなうことが推奨されます。
シート防水の劣化サインと長持ちさせる方法
シート防水は耐久性に優れた工法ですが、経年劣化は避けられません。
適切な時期にメンテナンスをおこなうには、劣化の兆候を見逃さないことが大切です。
ここでは、よくみられる劣化症状と、防水層を長持ちさせるための具体的な対策を紹介します。
要注意!シート防水4つの劣化症状
注意すべきシート防水の劣化症状は下記のとおりです。
- シート表面のひび割れ
- シートの継ぎ目や端部の劣化
- シートのたわみや破れ
- 水たまりや植物の発生
これらの症状がみられる場合、シート防水の性能が低下している可能性があります。
特に継ぎ目や端部の劣化は、雨水の侵入を招きやすく、早めの対処が重要です。
また、水たまりの放置は植物の根がシートを破る原因になることもあります。
定期的な点検をおこない、異常に早めに専門業者に相談しましょう。
シート防水にみられる、劣化症状に関するさらに 詳しい情報は、下記の記事をご覧ください。
【関連記事】シート防水の施工手順を解説!費用相場や見落としがちな劣化症状も紹介
シート防水を長持ちさせるための5つのコツ
シート防水を長持ちさせるためのコツは下記のとおりです。
- 定期的な点検の実施
- ドレン(排水口)のこまめな清掃
- 重い物や尖った物を防水層の上に置かない
- 紫外線や熱の影響を最小限にする
- トップコートの塗り直しを定期的におこなう
シート防水を長持ちさせるためには、日常的な管理が欠かせません。
特に排水口のつまりは水たまりや植物の発生を招き、防水層の劣化を加速させます。
また、直射日光や熱によるダメージを軽減するために、トップコートの再塗装を数年おきに実施するのが効果的です。
こうした予防策を地道に続けることで、防水性能を10年、15年と保ちやすくなります。
シート防水をより長持ちさせるためのさらに詳しい情報は、下記の記事を参考にしてください。
【関連記事】シート防水の耐用年数(寿命)は?屋上・ベランダの防水を長持ちさせる秘訣を解説!
シート防水のご相談は「翔和」へおまかせください!
シート防水は、耐久性と施工効率に優れた防水工法として、多くの建物に採用されています。
塩ビシート・ゴムシートや施工方法によって費用や耐用年数に差が出るため、建物の構造や用途に応じた選択が重要です。
また劣化症状を見逃さず、適切なメンテナンスをおこなえば、長く防水性能を保てます。
株式会社翔和では、建物の状態に応じた最適なシート防水工事を、豊富な実績と専門技術でご提供しています。
新築・改修を問わず、シート防水をご検討中の方は、ぜひお気軽にご相談ください。